「なんでできないの?」の前に知ってほしいこと。言語聴覚士が解説する、学習のつまづきの本当の原因
「机に向かうまでに時間がかかる」「文章題になると急に手が止まる」「音読はできるのに内容を聞かれると答えられない」——そんなわが子の様子に、「なぜ?」と首をかしげていませんか?実はこれ、怠けでも集中力のなさでもなく、情報処理の特性からくるつまづきであることがほとんどです。言語聴覚士が、その原因の見極め方とお家でできる3つの遊びをわかりやすく解説します。
1. はじめに
「宿題をやろうとすると、机に向かうだけで時間がかかる」「先生の説明はわかっているはずなのに、ノートがうまく書けない」「音読はできるのに、内容を聞かれると答えられない」
小学校に入り、学習の内容が少しずつ複雑になってくる時期、こうした小さな「あれ?」に気づく保護者の方は少なくありません。多くの場合、それは「怠けている」「集中力がない」といった問題ではなく、お子さんの発達段階や情報処理の特性からくる、ごく自然なつまづきです。けれど、その小さなサインを見過ごしたまま「なんでできないの」を積み重ねてしまうと、学習そのものへの苦手意識や自信の低下につながってしまうことがあります。今回は、言語聴覚士の視点から、学習面でのつまづきに早めに気づき、お子さんの自信を守りながらサポートするための考え方と、家庭でできる工夫をお伝えします。
2. ケース紹介
小学2年生のはるとくん(仮名)は、算数の文章問題が大の苦手でした。計算式そのものはできるのに、文章題になると急に手が止まってしまいます。お母さんが問題を読んであげると解けることも多く、先生からは「読解力が課題ですね」と言われていました。けれど、よく観察してみると、はるとくんは文章を目で追うことはできているものの、「だれが」「なにを」「どうした」という文の要素を頭の中で整理することに時間がかかっている様子でした。また、宿題に取り組む際も、最初の説明を聞いた直後は理解できているのに、いざ一人で問題に向かうと「あれ、何をすればいいんだっけ」と手順を忘れてしまうことがたびたびありました。これは「読む力がない」というより、聞いた情報を頭の中に保持しながら整理する力、いわゆるワーキングメモリの負荷が大きくなっている状態と考えられました。
3. 原因分析
学習面のつまづきは、実にさまざまな要因が絡み合って起こります。言語聴覚士の視点では、特に次のような力に注目します。
① ワーキングメモリ(作業記憶)の負荷
指示や文章を「聞きながら」「覚えながら」「処理する」という同時作業は、大人が思う以上に子どもにとって負担の大きい作業です。特に文章題や複数の指示(「教科書を出して、5ページを開いて、3番の問題を解いて」など)は、途中で情報がこぼれ落ちやすくなります。
② 語彙・言葉の理解の土台
教科の内容以前に、その説明で使われている言葉自体の理解があいまいだと、そこでつまづきが生まれます。「合わせて」「残りは」といった算数特有の言い回しも、実は言語理解の課題であることが少なくありません。
③ 聞く力と読む力のギャップ
耳で聞けば理解できるのに、自分で読むと理解が浅くなる、あるいはその逆、子どもによって得意な情報の入り方(聴覚優位・視覚優位)は異なります。学校の授業スタイルとお子さんの得意なスタイルが合っていないだけ、というケースも多くあります。
④ 見通しの立てにくさ
「今何をすればいいか」「あとどれくらいで終わるか」という見通しが持てないと、取りかかること自体に強いエネルギーが必要になります。これは特性というより、経験の積み重ねで育っていく力でもあります。
大切なのは、「できない」の背景にどんな力の凸凹があるのかを見立てることです。原因が違えば、有効な手立ても変わってきます。
4. 家庭でできる3つの遊び
学習支援というと「勉強させること」を思い浮かべがちですが、土台となる力は遊びの中でこそ育ちます。ここでは、家庭で気軽に取り入れられる3つの遊びをご紹介します。
① 伝言ゲーム
短い指示を1つずつ増やしながら伝える遊びです。「冷蔵庫からりんごを持ってきて」から始め、慣れてきたら「冷蔵庫からりんごを持ってきて、テーブルに置いて」と要素を増やしていきます。ワーキングメモリを楽しみながら鍛えられる、手軽で効果的な方法です。
② お話しりとり
普通のしりとりに「一言だけ説明を加える」ルールを足します。「りんご、赤くて丸い果物」「ゴリラ、動物園にいる大きな動物」というように。語彙を引き出す力と、簡単な説明文を組み立てる力の両方が育ちます。
③ 今日の3つニュース
夕食時などに、その日あった出来事を「だれが」「なにをした」「どう思った」の3点セットで話してもらう習慣です。最初は「楽しかった」だけでも大丈夫。少しずつ「だれが」「何をして」の要素を質問で引き出してあげることで、文章題や作文の土台となる「情報を整理して話す力」が自然と育っていきます。いずれも「勉強」の顔をしていないぶん、お子さんも身構えずに取り組めるのがポイントです。
5. 言語聴覚士としての考え方
言語聴覚士としてご家庭にお伝えしたいのは、「できないところを直そう」とする前に、「今どこでつまづいているのか」を丁寧に見極めることの大切さです。同じ「文章題が苦手」という状態でも、読む力の問題なのか、聞いて覚える力の問題なのか、それとも言葉の意味理解の問題なのかによって、必要なサポートはまったく異なります。原因を取り違えたまま繰り返し練習をさせてしまうと、努力しているのに結果が出ず、かえって自信を失わせてしまうことにもなりかねません。また、つまづきへの対応は「スモールステップ」が基本です。いきなり学年相当の課題をこなせるようにするのではなく、今できていることの少し先に、無理なく届く目標を置く。この積み重ねが、「やればできる」という感覚、自己効力感を育てていきます。
そしてもう一つ大切なのが、「できたこと」に本人が気づけるようにすることです。大人から見れば小さな進歩でも、本人にとっては大きな一歩であることが多くあります。「昨日より早くできたね」「自分で気づいて直せたね」といった、プロセスに対する声かけが、学習への意欲を支える大きな力になります。
6. まとめ
題や授業でのつまづきは、決して珍しいことではなく、多くのお子さんが通る道です。大切なのは、「なぜつまづいているのか」に目を向け、その子に合った関わり方を見つけていくことです。もし、「うちの子のつまづきは、何が原因なんだろう」「家庭での関わり方に自信が持てない」と感じることがあれば、一人で抱え込まず、専門家に相談することも選択肢の一つです。お子さんの得意・不得意を丁寧に見立てることで、無理なく続けられるサポートの方法がきっと見つかります。ウォルトのことばアカデミーでは、お子さん一人ひとりの発達の特性に合わせた学習面のご相談も承っています。「うちの子の場合はどうしたらいいんだろう」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。